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芹澤 きこ

芹澤 きこ

(23)

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短編『雨上がりの階段』

03/03 20:53

短編『雨上がりの階段』

 

短編『雨上がりの階段』

 

 

朝の電車は、いつもより湿っていた。

 

傘のしずくと、濡れたスーツの匂い。

窓ガラスはうっすら曇り、

車内の空気は少し重い。

 

目の前に立った彼女も、

雨の名残をまとっていた。

 

薄いブラウスが、

ところどころ肌に張りついている。

透けているというほどではない。

でも、濡れた布越しにうっすらと見える輪郭が、

かえって想像を刺激する。

 

きちんとまとめた髪から、

水滴がひとつ、首筋へ落ちる。

それを指で払う仕草が妙にゆっくりで、

視線を逸らすタイミングを失った。

 

見てはいけない。

そう思うほど、目が追う。

 

彼女はスマホを見ている。

こちらには気づいていないように見える。

でも、ほんのわずかに体の向きを変えた気がした。

 

電車が駅に滑り込む。

人の波に押されて、同じドアから降りる。

 

改札へ向かう階段。

彼女は一段上を歩く。

 

タイトなスーツのスカートが、

動くたびにぴたりと脚のラインに沿う。

見えそうで、見えない。

その絶妙な境界に、視線が吸い寄せられる。

 

自分でも情けないと思いながら、

つい目を上げてしまう。

 

その瞬間だった。

 

彼女が、ふと振り返る。

 

一瞬。

ほんの一瞬だけ、視線が合った。

 

冷たいわけじゃない。

でも、温かくもない。

淡々と、静かに、こちらを見下ろす目。

 

――気づいていた。

 

そう思った。

 

自分の視線も、

迷いも、

好奇心も。

 

すべて見透かされた気がして、

急に頬が熱くなる。

 

彼女は何も言わない。

ただ、わずかに口元を引き締めて、

また前を向く。

 

階段を上りきると、

彼女は同じ方向の改札へ消えていった。

 

残ったのは、

雨の匂いと、

見透かされたような感覚。

 

色っぽさというより、

大人の余裕。

 

自分だけが、

少し取り残された気がした。



🦋きこ🦋

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