AZITO V.I.P

芹澤 きこ

芹澤 きこ

(23)

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愛らしさと気品の融合。至福のひとときを

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🦋鏡越しの温度🦋

02/18 19:19

🦋鏡越しの温度🦋

朝の洗面台は静かだった。

水の音だけが響いて、

他の入居者はまだ食堂にいる時間。

 

彼が歯を磨いていると、

鏡の中に彼女が現れた。

 

「今日は私が見ますね」

 

新人とはいえ、

もう動きには慣れが出てきている。

けれど、その日は少し違った。

 

彼女は彼の後ろに立つと、

必要以上に距離を詰めた。

介助にしては、近い。

 

手首を支える指先が、

ほんの少し長く触れている。

確認というより、

触れている感覚を確かめるみたいに。

 

彼は何も言えない。

言えば意識していると認めることになる。

 

鏡を見るふりをしていると、

彼女の視線がこちらを見ているのがわかる。

 

逸らさない。

仕事中の視線じゃない。

 

「力、強いですね」

 

小さく笑う。

注意する口調ではない。

からかうようでもない。

でも、余裕がある。

 

口をゆすごうとすると、

彼女がコップを持つ手を少し高くする。

自然と彼の顔が上を向く。

 

その体勢のまま、

後ろの気配がさらに近づく。

 

触れてはいない。

でも、離れてもいない。

 

彼は気づく。

彼女は距離の取り方を知っている。

 

「しみてません?」

 

鏡越しに聞く。

目が合う。

 

問いかけなのに、

少し楽しんでいるようにも見える。

 

心臓が速くなるのは、

年齢のせいじゃない。

 

彼女が一歩引けば終わる距離を、

あえて保っている。

 

廊下の足音がして、

彼女は何事もなかったように離れた。

 

「はい、終わりです」

 

いつもの声。

いつもの距離。

 

でも彼だけが知っている。

さっきまでの空気が、

ただの介助じゃなかったことを。

 

鏡に映る自分の顔が、

少し赤い。

 

彼女はもう次の仕事へ向かっている。

振り返りもしない。

 

――からかわれただけかもしれない。

 

それでも、

あの距離を思い出すと、

胸の奥が静かに落ち着かない。

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