AZITO V.I.P

芹澤 きこ

芹澤 きこ

(23)

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愛らしさと気品の融合。至福のひとときを

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🦋 『雨の日のタッチライン』🦋

12/20 21:36

🦋 『雨の日のタッチライン』🦋

 

短編『雨の日のタッチライン』

放課後のグラウンドは、いつも土の匂いがする。

スパイクが地面を削る音、ボールが弾く乾いた音、先輩の声。

それらの中に、最近ひとつだけ、気になる存在が混ざった。

 

マネージャーの彼女だ。

 

給水の準備をしている横顔。

タオルを畳む手つき。

ベンチの端で、練習メニューを真剣に見つめる目。

 

走っている最中なのに、

気づくと視線がそっちへ行ってしまう。

集中しなきゃって思うほど、

胸の奥がざわつく。

 

「はい、水」

 

差し出されたボトルを受け取る瞬間、

指が触れそうで触れない。

その一秒に、息を止めている自分がいる。

 

「ありがとう」

 

声が少しだけ高くなった気がして、

慌ててキャップをひねった。

 

彼女は、たぶん気づいていない。

俺が見ていることも、

そのたびに心臓がうるさくなることも。

 

ある日、空が暗くなって、

練習は急きょ体育館に変わった。

雨が屋根を叩く音が、

いつもより近くに聞こえる。

 

室内は湿っぽくて、

ボールの音が反響する。

距離が縮まる分、

彼女の声も、動きも、よく見えた。

 

タオルを配りながら、

彼女がすぐ横を通る。

肩と肩が、ほんの少しだけ近い。

 

「滑りやすいから、気をつけてね」

 

そう言われて、

「うん」としか返せなかった。

それ以上、言葉が続かなかった。

 

ドリルの合間、

壁際でストレッチをしていると、

彼女がメモを取りながらこちらを見る。

 

目が合った。

すぐに逸らされたけど、

胸の奥が、ぎゅっと縮んだ。

 

――見られてる。

 

そう思うだけで、

背中が熱くなる。

雨のせいか、空気のせいか、

理由はよくわからなかった。

 

練習が終わって、

体育館の外に出ると、雨はまだ降っていた。

彼女は傘を忘れたらしく、

軒下で立ち止まっている。

 

「一緒に、行く?」

 

勇気を出してそう言うと、

彼女は少し驚いた顔をしてから、うなずいた。

 

相合い傘。

肩が触れそうで、触れない距離。

雨音に会話が溶けて、

歩く速さだけが同じになる。

 

言いたいことは、山ほどある。

でも、今はまだ、言葉にできない。

 

校門の前で別れるとき、

彼女が小さく手を振った。

 

それだけなのに、

胸の奥があたたかくなった。

 

サッカーが好きだ。

走るのも、負けず嫌いなのも、全部。

でも最近は、

彼女がいる練習の時間が、特別になっている。

 

告白なんて、まだ先でいい。

雨が上がるみたいに、

この気持ちも、いつか自然に言える気がする。

 

次の練習も、きっと見る。

走りながら、

タッチラインの向こう側にいる彼女を。

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